公孫樹のような母の愛(絵描き男の料理徒然草vol13)


イチョウの葉が色づく頃、私は母と歩いた
ミューズパークの黄色に輝く道を思い出す。
今年83歳になった母は、【無縁坂】の歌
詞ではないが、いつの間にか小さくなって
・・苦労をかけた様々な思いが巡リ出す。
イチョウはは漢字で銀杏(ぎんなん)だが、
公孫樹とも書く。実(銀杏)を沢山付ける
ことで(子孫繁栄)の意味、そして葉が末広
がりで、安定して長生き出来る象徴的な意味
合いから来ているのだろう。
秩父には樹齢700年の国神の大イチョウ
(皆野)はじめ、長寿の巨木がある。
秩父神社には400年の大イチョウだけでなく
「乳銀杏」と呼ばれる、デンプン質を多く
含む珍しい樹もある。昭和8年秩父宮妃殿下
が植栽された苗木が成長したものだが、
樹の下から見上げると幼児の頃のように、
ふくよかで温かく柔らかい母の乳房を、精一杯
口に含み、見ていた面影が重なる。

実が落ちて潰れて異臭を放つ銀杏・・素手では
触れぬが、ぶよぶよをよく洗って乾燥させると
なんとも美味しい旬の秋味となる。私も10代
で家出し、絵の独り道を志し、困窮や持病に
苦しみながら、散々母に心配と心痛をかけてき
た様は、周囲には【腫れ物に触るよう】だった
かもしれないが、忍耐強く母の愛情で洗って
もらって今があると感謝している。

末広がり、公孫樹の名のとおり、いつまでも
元気で幸福でいて欲しいと願う。

埼玉新聞10月28日掲載

[昨日の断片]161029