埼玉新聞連載7 【玉子】絵描き男の料理徒然草

絵描き男香本博が、料理にまつわるエッセイと絵と
レシピ紹介とイラスト連載。今回は7回目で具材は玉子
【庶民の味方幸せの味】

一個の卵の値段は昔と変わらないと聞く。
若き両親が苦労して幼い自分と兄を育ててくれた昭和、
給料日の夜だけは食堂に連出し【何でも食べて良いぞ】と父。
私の注文は決まって大好物のオムライス。
フワフワ玉子と甘めのチキンライスのコラボに舌鼓。
満面の笑みで一気に平らげた。
すると不思議な事にニコニコと僕らを見ているだけで
注文もしない父母。あれえ、おなか空かないのかなあ?
でも今はその心境わかる気がする。
【お前たち美味しそうに食べるなあ(笑)
よし、明日からがんばるぞ】と、
おなかより心がきっと満たされていたのだろう、
毎月の生活費の支払いに追われ、大変な一か月が待っていても。
玉子は、貧しいながらも家族の幸せの味として記憶に残っている。
さて今は大量生産となって、着色料・添加物入り餌による流通
がある中で、秩父のレストラン・サルベージ(宮側町)の
経営者兼シェフの坪内浩さんは、健康な鶏を育て、
昔同様の美味しいプラチナ玉子を生産している。
しかも地元の他業種生産者から得た具材を
売買でなく物々交換で仕入れ循環するという
地域を活かす取り組み。豆腐屋から(おから・絞り汁)、
農家から(米ぬか)、魚屋(アラ)、飲食店(揚げ油)
これらを混合して発酵させ、出来立ての新鮮な餌を作る。
鶏がそれを毎日食べることで胃腸快調で元気な卵を産んでくれ、
仕入れ先に供給できるという一石二鳥(鶏?)。
貧富の差なく明け暮れるお日様は、黄身の色合いに似ている。
絵の題名は【つぶれぬ黄身幸せ労い】

[昨日の断片]160423