林ざわめく夜空


雲は、夜という海へ旅をしていた。
風も無く、林たちを優しく包んだのは夕刻だった。
そこから夜の山と里の明かりを見下ろすために
雲は衣を厚くしてみた。

武甲山を横目で見て、絵描きの家の傍まで来た。
そう、あの変わり者の こう・・なんとかいう絵描きだよ。
あいつが面白くってねえ、だっていつも
俺たち雲のことを じっと目を凝らしてるんだぜ
この前なんか、追いつけるわけ無いのに
追ってきたりするんだ。真夜中なのにスケッチして
急に感動したり、うんうんうなずいていやがんのさ。
それが楽しくって、いきなり風を吹かしたりするんだ。
さっき、星があんまり瞬いてまぶしいから 輝かないように食っちまった。
今日の絵描きは、駐車場で突っ立って、林を見ていやがる。


林を驚かすぞ、強い風で頭突きだあっ。
林君たち、びっくりしたかあ。もっと揺さぶってやる。
びびらせてやる。
なんだよ、みんな手を大きく伸ばして深呼吸するのかよ。
馬鹿にすんなよお。わかったよ
今夜は一気に上に帰っていくよお。
すこーーーんとね。

またああ、またあいつがじっと目を丸く輝かして
嬉しそうに見てるよ
わかっちまったかい?あんたが感動した知念の
長細く天にそびえた雲に似せてやったんだ。
ちいとは元気が出たみたいだねえ。
それにしてもあんた、他にやること無いのかい。
俺ら 雲なんか描いて。
じゃあまた 見にくるからね。あばよ。