画家は語らず


あと一声
絵を求めそうで何度も何度も見直す人
あと一声かければ
絵を購入したいのだろうと、私が察する人
あと一声 
『何が気に入りましたか』
また何度も一点一点 丁寧に見直してくださる。
全ての絵の”いきさつ”などをお話する。
あと一声・・脳裏によぎる言葉・・でも決して言ってはいけないと私が思う言葉
『これに決めましょう』
『これなんか良いんじゃあないですか』
あと一声が出ない!
そして、そうした言葉が脳裏に巡った・・銭への渇望の醜い自らのざまが
あまりに悲しく、ひどく落ち込んだ。
自分なんか消えて無くなってしまえ!
絵が いつもより動かない時に囁かれる内面の言葉
いってい おめえは何の為に絵を描いているんじゃ!
さあさあ、寄ってらっしゃい、どうだい、この艶 この色 この輝き
値打ちもんだよ!さあ買った買ったあ
そういうたぐいの代物か?
画家は 絵で語れ
画家は それ以上 何も語るな!

個展期間中、早めに会場に着いてからの朝食は
このところ飯能駅前のファミマで買ってすましていた。
あまりに味気なく寂しいので、今朝は弁当を作って持参した。
無駄な出費は避けよう。
元気を出してよ・・その夜、彼女が声をかけてくれた。